ご質問や疑問


精神療法はほんとうに効果があるか

私たちがいう精神療法は難しく考えないで下さい。多くの精神療法家のよいところ、なるほどと思えるところ(たとえば初歩的な精神分析であったり、森田療法でも)を取りこんで自分の治療経験や治療観に照らして行うのがふつうです。決して体系立ったものではありません。この(精神)療法しかないというのでは、ホームランもあるけど三振ゲッツーはもっとあると思います。折衷して巧みに臨床に応用する方がよいでしょう。日常的な相談事の延長として、それを精神科医の立場で一緒に悩み、迷い、ときにはアドバイスする治療法です。格好悪くて泥臭いものであると自認しています。

ごく大雑把にいって精神療法=精神療法的アプローチと考えてもいいかもしれません。アプローチの仕方で治療の結果が予測できるほどです。望ましいアプローチは治療者の穏やかな物腰、声のトーン、仕草、身体診察からなり、患者を世間のふつうの一市民として礼節をもって迎える態度だろうと思うのです。患者さんの話に耳を傾け、苦しみを受け止め、共感する態度が必要です。

一般に、うつ病や不安障害、不眠症、心理的・社会的要因が原因となっているとみられる精神障害に対して精神療法は有効と言われています。当たり前のことですが、治療者の技量によって有効性も有害性もあります。精神療法の影響力の大きさは成功例よりも失敗例をみれば分かります。(失敗例の詳細はここでは述べないことにします)

統合失調症に対しては生物学的研究が主流になるに従い有効性が疑われているか、軽視されている傾向があると感じます。統合失調者の元来の優しさや細やかさ、急性期の激しさ、慢性期の一見のっぺらした状態などに共感できない治療者がじつは多くて、精神療法的な接近をとらないというか、とれないようです。面談しても意味がないとか薬でしか良くならないというのです。統合失調症の回復の全過程に関わった治療者や教育者はほんの僅かであり、医学部では患者さんの気持ちや精神療法について教える人材が乏しいためでしょうか。若手の医師は薬理学的アルゴリズムによる薬物治療を教わっても、病者の気持ちをじっくり聞くことの重要性は学んでいないようです。患者さんの「症状」に見合う薬と量だけを治療の目標にしています。ついに、わが国も医者は「処方するだけの存在」になってきたと思うこのごろです。

また、従来から精神療法が無効と言われ続けてきたてんかんや知的障害などにも効果があることはあまり知られていません。てんかんの発作は薬物が最も有効なのは自明ですが、精神療法的なサポートは間接的にじわりと発作を抑制します。知的障害にはさらに効果が期待でき、アプローチの仕方次第で薬の増減よりも有効なことがあります。

認知症の方にも精神療法的アプローチとしての情緒的関わり合いは大切かつ有効です。 (大谷るみ子さん)

<高度な脳機能障害(低酸素脳症による)の患者さんが強い不安や興奮のため大量の精神病薬を投与されていたことがあった。自分の年齢を実年齢より20歳も若く言い、重度の見当識障害があった。その日の家族の面会もすぐ忘れた。ほぼ全介助が必要な方だった。しかし、その方は診察室で面接を重ねているうちに(話すことがなくても、あるいは通じにくくても)、家にいる老いた両親を心配していることや病前の仕事上の苦労を語るようになった。形式的な立ち話でなく、診察室を指さして、そこで面談して下さいと望んだ。あるとき、「面談をしていただいて有り難うございました」と感謝の気持ちを述べた。すでに薬は1/3以下に減らしていたが、思いつめた荒っぽい言葉や被害的な言動と共に突然の興奮は消失していた。脳機能が高度に障害されているので話しが理解できない、疎通がとれっこないという先入見があったのであろう。粗暴な言動には何かしらの理由があるのだが、本人の気持ちを聞かないで薬理学的鎮静をはかられ、そのために自立歩行ができなくなるほど大量の薬が処方され、車いすを使用していた。悲しいことだ。

薬物療法はどうか

精神科の治療において薬物を使わない治療は考えられません。抗不安薬や睡眠導入剤は種類も多く、医師や患者さんはその恩恵にあずかっているといって良いでしょう。副作用がすくないという非定型精神病薬の開発もめざましいものがあります。しかし問題は精神科薬剤使用戦略としてのソフトウェアがバージョンアップしていないことにあります。10の訴えに対し10種の薬で対応したり、めまぐるしく、週に2度や3度も変薬するケース(猫の目処方)を散見していますが、これは使用法の原則にないやり方です。10の訴えも根っこは一緒であって1種類の薬で足りることが珍しくありません。頻繁な変薬は強い副作用などで急ぐ場合を除けば、薬効が定まる前にすぐ変薬されるので、どの薬が有効か判断困難になります。これは薬物使用の原則なのに現場の治療がそうなっていないのは奇妙なことあり、経過がこじれる一因になっていると考えます。

処方が大ハズレでなければ、面談を重ねながら経過を見ることで薬の効果と病状の変化や流れが見えてきます。訴えの内容は面談することで解決することもあります。薬物が万能であるかのように、すべて薬で解決をはかるのは無理なのです。その意味では良薬も本来の効果を発揮できません。また言葉を添えない処方や同意を得ない処方は効きが悪くてあたりまえです。薬の効果は薬とそれを服用する人との相互作用の結果です。薬は化学的に構造式が一定で力価は変化しないけれども、服用する側の条件すなわち緊張や不安が強ければ効きは悪く、和らげば効きがよくなります。薬の効きを良くするためには、薬物療法は精神療法的アプローチのもとで行うのがもっとも効果的であると私は経験しています。

私は東京を離れてからの十数年間をいくつかの病院で働らきましたが、どこにいても多剤大量処方が多くて閉口しました。そのため引き継いだ処方箋から薬を大幅に減らすことが主な仕事になりました。悪化したケースはなく、むしろ改善した患者さんがほとんどです。ふしぎなことではなく、減薬するにはそれだけの診察と根拠のある経験的判断が働くからです。もう一つの仕事は医師の大半が関心を払わない便通の改善でした。それは毎日の排便チェックと便秘の判断に追われ、医師に指示された下剤の頓服処方を行う夜勤看護スタッフの負担減らしにもなったようです。

薬をやめたから再発したとか、やめると再発すると言われますが

薬をやめたから具合が悪くなったと昔から公然と言われてますが、安易に決めつけられないと思います。なぜ薬をやめようと思い立ったのか、やめてしまったのか、その動機に原因があるといってよいでしょう。大半は就労・就学への焦りです。さらに、いつまでも薬を飲んでいられない、こうしていられない、このままではどうなるか分からないという焦りと不安が認められます。社会的規範や社会の要請に早く応えようとする気持ちの表れかもしれません。長い療養生活のいら立ちもあるでしょう。(服薬が面倒くさくなったからやめたという患者さんには出会ったことがありません。) そのため薬をやめるまえから不眠が始まっていて、心身の余裕をなし崩しに失う状態だった可能性が大きいと推測されます。こんなときに患者さんが早めにSOSを発して受診してくれると、大ごとにならずに小火(ボヤ)ですみます。治療者と信頼関係ができている人ほど早めに相談してくれるので「信頼」が決め手になることが少なくありません。 私たちは患者さんの焦る気持ちを汲みつつ、孤立しがちでしんどい療養生活をサポートしてエネルギーの補給をしていきます。

重ねて言いますが、薬をやめたことが直接的な結果として再発や再燃をもたらすわけではありません。しかし、薬を飲んでさえいれば再発しないという保障もありません。大切なのは、その時々の状態や体調の変化について日頃から相談しておくことであり、早めに対処することだと思います。再発は心療内科や精神科の病の必然ではありません。

肥満について

精神科の薬剤は副作用のリストに体重増加や肥満があげられていますが、単純にそう決めつけるのはどうかと私は考えます。私は体重変動について小論文を書いたことがあります。簡単にいうと、服薬・療養によって病状の回復がすすめば不振だった食欲が出てきます。入院環境において特に食欲増進が顕著です。食べることしか楽しみがないからということもできるし、分析的解釈も可能です。回復途上の患者の皆さんは本当によく食べます。その結果確かに太ります。(逆に太らないまま回復した患者さんはほとんど記憶にないくらいです。) しかし、いつまでも太り続けるわけではありません。寛解後期に至ると増加したまま一定します。さらに一歩回復がすすむと肥満を気にしてダイエットを始めるのですが、入院中はなかなか成功しません。そのうち退院して家庭に戻る患者さんが大半であり、以後外来通院になります。

外来通院が継続され、信頼関係ができあがっている患者さんの生活や不安・困りごとなどをサポートしているうちに、生活が徐々に規則的になりリズムができ、日々の過ごし方にメリハリがついてきます。そのころから表情にしまりが出てきて動作が軽快になる時がきます。診察室の体重計が活躍しだします。受診のたびに体重が減ってくるのです。6ヶ月から12ヶ月の間に10~15Kgの減少が認められることが珍しくありません。ある年数えてみたら6人(+2~3人)いました。(高齢者を除いた外来患者総数の約7~10%。肥満者の半数相当)。消耗してやせたのではありません。一方50ヶ月に及ぶ入院期間中やせたままテコでも動かなかった体重が、退院したら2ヶ月目で12kg増加した身長180cm弱の患者さんもいます。

この頃から生殖能力が回復して女性は生理が再開し始めます。薬は定型・非定型抗精神病薬とも無関係です。だいいちほとんど変えません。細かい考察は置きますが、体重や排便をはじめとする身体に注意を向かせたり、生活の規則化と生活の味付けをすすめ、心をサポートする治療の指向性が無関係ではないと考えています。回復の奥行きを深め、懐を広くすることが念頭にあります。引き継ぎ患者さんの診察は話題を病的体験の脱中心化からはじめると付記しておきます。

一方、ジプレキサを代表とする非定型抗精神病薬による肥満は少なくありませんが、これは治療者の観察眼や短時間面接によってさらに助長されます。患者さんの顔を診ない診察や治療者に責任があると思います。肥満を苦にする患者さんの気持ちを理解していれば、診察のたびに体重を測り、薬物の減量や変更を話し合えます。体重増加に無関心な治療者は慢性化していると考えてよいでしょう。

無月経・生理不順

肥満のところで述べたように薬物に原因のすべてがあると考えていません。
リズムのある生活を維持できるようになったら順調になります。
「先生、何年かぶりに戻りました」という患者さんが少なくないのです。

ここで一言

近年は上記のような経験的報告はエビデンスがないと言われています。
しかし基礎データが個別性やマインドを排除したうえ、回復段階を一切考慮せず、精密な診察や面接もなく統計的数値にこだわって精神医学を科学化する動きは精神科の治療から遠い世界にあると思います。

その他

  • 薬の効果を知るときどんなことに気をつけたらよくなりますか、治りますか
  • 治るってどういうことか
  • 薬は安全か
  • 習慣性や依存性はないか
  • 眠気は副作用?
  • 薬のやめ時、やめ方
  • 就労や就学、復職のタイミング
  • 治療のゴールはどこ?
  • その他

これらは患者の皆さんから受ける質問、疑問の代表的なものです。
各々お答えしているとますます長文になってしまいます。往診時にお答えしたいと思います。

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